2008年11月20日

生き屏風

生き屏風

著者名:田辺青蛙(著)
出版社:角川書店
出版年:2008.10
ISBN :9784043923014


 県境で暮らす妖鬼の皐月のもとに、奇妙な依頼が持ち込まれた。病で死んだ奥方の霊が屏風に宿り、夏になると屏風から奥方の声がする。これが我侭放題で騒がしいので、皐月に話相手をつとめてほしいのだという。
 脅しつけるように頼まれ、しぶしぶその役を引き受けた皐月だったが……。

 短編集。タイトルになった『生き屏風』は第15回日本ホラー小説大賞短編賞作品。ホラーというより和風幻想譚というから買ってみた。
 これは確かにホラーというより、昔話のようにしみじみと懐かしい気分で読める幻想譚。
 何とも私好みの作品でした。『蟲師』とか好きな人は多分いけるんじゃないでしょうか。
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ワルプルギスの夜、黒猫とダンスを。

ワルプルギスの夜、黒猫とダンスを。

著者名:古戸マチコ(著)
出版社:一迅社
出版年:2008.10
ISBN :9784758040426


 取り立てて抜きん出たところのない気弱な少女ルナ。彼女が十四歳の誕生日に買った赤い靴は魔女の忘れ物だという。
 家への帰り道で見知らぬ赤い女に靴の交換を持ちかけられ、ルナは女の言うがままに頷いてしまう。その女こそ、魔女ベファーナ。頼んだ靴を取りに来なかったといわれる魔女。
 ルナは靴ばかりか身体まで魔女と入れ替わってしまい、自称魔女の一番の使い魔の猫耳男と、魔女の家の屋根裏に住まうハードボイルドネズミと共に、元に戻る方法を探すことになるのだが……。

 オンライン小説サイト「へいじつや」の古戸マチコさんの書く少女小説。
 どうもこの方の小説は「大王と言葉遊びシリーズ」から入ったせいなのか、ついつい笑いを求めてしまうんですが。今回本編はお笑い成分抑え目。その分あとがきで補充しましたが。
 基本的には少女の成長物ですが、登場人物たちはことごとくどこか変です。
 そして、ハードボイルドネズミがかっこいい。
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2008年11月19日

カフェ・コッペリア

カフェ・コッペリア

著者名:菅浩江(著)
出版社:早川書房
出版年:2008.11
ISBN :9784152089748


 SFというよりは、近未来の今よりもずっと進んだ機械や技術に囲まれて、普遍的な悩みに惑う人と機械の物語を集めた短編集。悲喜こもごも。全編綺麗にまとまった良作ですが、裏を返せばこれだといえるようなものはなかったような。まぁ、私の趣味の問題ですが。
 ただ、リラランラビランは私も撫でまわしたい。つぶらな瞳のケセランパサランなんて、そんな。
 それにしても、表紙の緑が綺麗です(ネットの書影は色が濃い)。
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雨にもまけず粗茶一服 下

雨にもまけず粗茶一服 下

著者名:松村栄子(著)
出版社:ジャイブ
出版年:2008.11
ISBN :9784861765834


 家出した弱小武家茶道家元の跡取り息子・友衛遊馬と、出奔先で出会った周囲のどこか愉快な人たちとの毎日を、お茶と風情とおかしみを混ぜこぜに描いた本作。下巻ともなれば、居候生活にもすっかり馴染んでしまっておりますね。
 このあたりになれば、寧ろばたばたしているのは周囲の人たちで、ぼっちゃんは適度に巻き込まれつつも、いろいろと見つめなおすことも多くありといった感。
 すべてがさらりと書かれているので、読みやすくはありますが、脇の人たちの間では急速に事態が進行していたり。遊馬と同じで寝耳に水ですよ。何があったのカンナさんたち。
 話はひとまずこれにて終わりですが、現在続編連載中とのことで、楽しみにしたいと思います。
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2008年11月16日

朱唇

朱唇

著者名:井上祐美子(著)
出版社:中央公論新社
出版年:2007.02
ISBN :9784120038099


 中国歴史小説の名手井上祐美子さんの、妓女をメインとして編まれた短編集。中国ものの書き手の中でも、歴史上の悪役と女性を書かせたらピカイチだよなぁ、と思っている作家さんなので、大変満足させていただきました。
 女性の、たおやかさとしたたかさ。機知に富んだ駆け引きや、苦界に落ちた身の悲しみ。それらが、どろどろとした描写もなく、すっきりと読め、更には余韻を残す読後感。
 話毎、宛ら様々な花を見る心地で読ませていただきました。
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2008年11月12日

護られし者1 萌芽

護られし者 1

著者名:ピーターV.ブレット(著)
和爾桃子(訳)
出版社:早川書房
出版年:2008.09
ISBN :9784150204785


 日没と共に魔物が現れ、人を襲うのが今の世界の在り様だ。夜の間は護符で囲った室内で身を潜め、人々は息を潜めて朝を待つしかない。
 かつて人々を率いた神使が現れた時代、人の手には戦いの護符があり、戦う術はあった。しかし、ある日を境に魔物がぴたりと地上から姿を消し、やがて訪れた人が隆盛を極めた科学の時代、魔物や護符の力の大半は迷信として忘れられていった。だからこそ、突如として戻ってきた魔物たちになす術もなく敗れ去り、今の世界がある。
 地方を行き来するものがほとんどないために、交易は減り、辺境には情報や物資も届かない。唯一の頼りは、訓練を受け護符書きや簡単な薬草の知識を持つ配達士の存在だ。
 辺境に住まう少年アーレンは、ある配達士との出会いから、魔物に脅えるだけの毎日に疑問を持つ。とある事件に巻き込まれたのを機に、配達士となるために旅立つことを決意するのだった……。

 文明崩壊してるんだから当然ですが、十全健全な作品ではありません。苦手な方はご注意を。
 とはいえ、主人公は基本的に前向きに生きてますので、そこまで重たい空気にはなってませんが。全般的に、困った大人たちと田舎の嫌な面が目白押しですね、この巻。

 早川さんがやたらと気合入れて、アメリカより先行発売した三部作の第一部三冊分割の一巻目(ややこしい)。とはいえ、近所の本屋になかったんで、ついでもあったんでお取り寄せ。頑張れハヤカワ文庫。ずっと取り寄せなんて、面倒くさいぞ(苦笑)。
 ともかくも、ずっと取り寄せでも買っても良いぐらいには、私好みの物語でした。

 主人公は三人おりまして、この巻では全員馬鹿な大人たちの行動が原因で今までの生活が崩壊し、一部の頼れる大人たちの手を借りて新たな生活を始めるところまでで終わってます。全体的に夜の暗がりと無知の闇が昼間に世界まで侵食しているような重苦しさがありますが、暗いばかりの物語ではなく、なかなかにしぶとそうな主人公と、脇で彼らを支える一癖も二癖もある大人たちが魅力的。
 三部作というのなら、最後まで出るといいなぁ(色々してやられた前科があるもんなぁ、早川さんには)。
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2008年11月11日

エンデュミオンと叡智の書

エンデュミオンと叡智の書

著者名:マシュー・スケルトン(著)
大久保寛(訳)
出版社:新潮社
出版年:2008.08
ISBN :9784102168714


 母の仕事の都合でブレークは妹と共にオックスフォードに来ている。このところ両親の仲がぎくしゃくとしているのが原因の一つだ。
 母が迎えに来るまでの間、彼ら兄妹の居場所は大学の図書館だ。ブレークは、正直本がそんなに好きではない。本を読むでもなく、時間つぶしに棚の本を指で叩いて回っていたブレークは、本から反撃をされる。犯人は蛇の歯のような金属の壊れた留め金を持つ一冊の本「エンデュミオン・スプリング」。
 ブレークが手にしたのは、何も書かれていない空白の本だった。

 ブレークが妹のダックと空白の本を巡る騒動に巻き込まれる現代パートと、その本のタイトルとなっている印刷屋の徒弟エンデュミオン・スプリングが、いかにして空白の本を作り出しオックスフォードの図書館に隠したのかを綴った過去パートとが交互にくる構成。

 ある意味、オーソドックスな児童書風海外ファンタジー小説。ファンタジー色がそんなに強くなく、日常的な瑣末ごとに煩わされているあたりが好印象。現代の彼らの前に大きく立ちふさがる障害の一つは、母親の言いつけだったりして、何ともうんうんって気持ちになっちゃいますね。
 話として個人的に興味深いなぁ、と思ったのは過去パート。エンデュミオン・スプリングは印刷機の発明家グーテンベルクの徒弟として登場するんですが、印刷機を巡る騒動が虚実織り交ぜて書かれています。
 それにしても、メインが本だったり、舞台が図書館というだけで、少なくとも三割増し楽しんで読んでしまったような気がするなぁ(笑)。
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2008年11月07日

イノセント・ゲリラの祝祭

イノセント・ゲリラの祝祭

著者名:海堂尊(著)
出版社:宝島社
出版年:2008.11
ISBN :9784796666763


 新興宗教団体のリンチ死事件。それは初動時に適切な検視が行われず、遺族からの訴えがなければ教団による犯罪が見逃される可能性があったことが発覚した。
 十二月初旬。高階病院長に呼び出された田口は、霞ヶ関への出張を頼まれる。会議参加への依頼状の送り主は、厚生省のはみ出し者白鳥。嫌な予感を覚えつつ、田口は厚生労働省へと向かうのだったが……。

 田口・白鳥コンビのシリーズ四作目。今回、ミステリー要素はゼロ。嫌味と皮肉のオンパレードで、ついつい、にやりとしつつ読む耽ってしまいましたが。いやぁ、ここまで悪し様に言われて、まだまだネタが尽きないのがお役人の凄いところだなぁ。はは。
 医療行政の現在が大層よくわかり、書き手の意図もよくわかる一冊。物語として捉えた場合、後者が前面に出すぎていて、何だか物語の方が置き去りにされてる感がないでもないですが、総合的には大層楽しゅうございました。
 しかし、田中芳樹といい、この人といい、そのうち発禁本指定食らわないか心配になりますね(そうなったらこの国も終わりですが)。
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翼の帰る処 上

翼の帰る処 上

著者名:妹尾ゆふ子(著)
出版社:幻冬舎コミックス
出版年:2008.10
ISBN :9784344814660


 帝国の尚書官ヤエトは北嶺に赴任して来たばかり。それは辺境への左遷人事だったが、生来病弱で地味な楽隠居を夢見る彼にとっては、穏当な生活のはじまりのはずだった。しかし、唐突に郡太守として皇女が着任し、彼は副官として任命されてしまい……。

 下巻が今月末出るので、待つのも有りだなぁ、と思ってたんですが。目の前にあると読んでしまいますよね。
 妹尾ゆふ子さん、久々の新作。待ってました、と声を大にして言いたい。いや、寧ろ、有り難う、か。

 隠居に憧れつつも、生真面目な性質が災いして、いらんことまで背負い込んでしまう主人公が、皇女と北嶺の人たちの間で、何かと気苦労の多い生活を送る話。これが表層。
 尚書局の中でも史官に属し、「過去を視る」力を持つヤエトの視点から、過去がないといわれる北嶺の地の昔語りや生活様式の中に息づく過去のかけらや、太守として皇女を送り込んできた皇帝の差配などから、ちらりほらりと見え隠れするもの。多分これが下巻へと続く大きな流れになりそうなんですが、どう転ぶのかはさっぱり。そのへん置いといても充分楽しいですが。特に、そこそこいい年齢なのに、大人気なくも不器用に立ち回るヤエトが(笑)。隠居という言葉には、多分に憧れます。

 それにしても、何か見覚えのある記述がちらほらと。
 「夢語りの詩」や「魔法の庭」と同一世界観のお話なんですね。というわけで、『竜の哭く谷』読み返してみたり。
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2008年11月04日

フーバニア国異聞  水の国の賢者と鉄の国の探索者

フーバニア国異聞

著者名:縞田理理(著)
出版社:中央公論新社
出版年:2008.10
ISBN :9784125010540


 カリカテリアの対岸に位置する小国フーバニアは、魔境と呼ばれている。干潮時には歩いて渡れるほど隣接していながらも、行って帰ってきたものはなく、怪しい噂ばかりが囁かれているのだ。
 父に命じられその地に赴くことになった、博物画家志望の青年エラード。人呼んで「役立たずの男」。
 着いた途端、見たこともない巨大生物や植物に翻弄され、底なし沼にはまって死にかけるのだったが……。

 ほのぼののんびり。
 丸々未知の世界観察日記となるのかな、と思ってましたら、フーバニアを巡る陰謀話もあったりして、一冊できれいに完結してます。もう少しフーバニア滞在日記的な部分がほしかったような。
 何だかゆったりした気持ちで読めた一冊。
posted by 空 at 20:47| Comment(0) | TrackBack(0) | ファンタジー